
こころの病気の治療は、薬を飲むことだけではありません。
治療別解説
こころの病気の治療は、薬を飲むことだけではありません。症状や診断が同じでも、生活状況、仕事や家庭の環境、これまでに受けた治療、身体の状態、ご本人の希望によって、適した治療は異なります。心療内科・精神科の治療には、薬物療法だけでなく、カウンセリング、休養や勤務調整などの環境調整、生活習慣の見直し、TMS(経頭蓋磁気刺激)治療など、さまざまな方法があります。ひとつの治療だけで進めるとは限らず、症状や回復の段階に合わせて複数の方法を組み合わせることも少なくありません。たわらクリニックでは、治療の目的、期待できる効果、副作用や負担を確認しながら、できるだけ日常生活や仕事と両立しやすい治療方針を一緒に考えます。
薬物療法
うつ病、不安症、パニック障害、強迫性障害、不眠症、双極性障害、ADHDなどでは、症状や診断に応じて薬物療法を提案することがあります。薬は「症状を一時的に抑えるためのもの」だけではなく、病気によっては再発を防ぎ、安定した状態を維持するために一定期間継続することが重要な場合もあります。
処方を行う場合には、何のために使用する薬なのか、どの程度の期間で効果を評価するのか、起こり得る副作用、服用期間や減量・中止の考え方などを説明します。薬の効き方や副作用には個人差があるため、開始後の変化を確認しながら量や種類を調整していきます。
抗うつ薬
抗うつ薬は、うつ病だけでなく、不安症、パニック障害、強迫性障害、社交不安障害などに用いられることがあります。代表的なものとして、SSRIのエスシタロプラム(レクサプロ)、セルトラリン(ジェイゾロフト)、パロキセチン(パキシル)、SNRIのデュロキセチン(サインバルタ)、ベンラファキシン(イフェクサーSR)、NaSSAのミルタザピン(リフレックス/レメロン)、そのほかボルチオキセチン(トリンテリックス)などがあります。
抗うつ薬は、服用したその日から気分を大きく変える薬ではなく、効果を判断するまでに数週間かかることがあります。開始時には吐き気、眠気、頭痛、落ち着かなさなどがみられることがあり、薬剤によっては性機能への影響などもあります。また、急に中止するとめまい、不安、しびれ感などの中止症状が出ることがあるため、自己判断で急にやめず、医師と相談しながら調整します。
抗不安薬
強い不安や緊張、パニック症状などに対して、ロラゼパム(ワイパックス)、アルプラゾラム(ソラナックス/コンスタン)などのベンゾジアゼピン系抗不安薬を使用することがあります。比較的速やかに効果が現れる一方、眠気やふらつきのほか、長期間・高用量の使用では依存や耐性が問題になることがあります。
そのため、不安症の治療では抗不安薬だけを漫然と続けるのではなく、必要に応じてSSRI・SNRIなどの抗うつ薬、カウンセリング、環境調整などを組み合わせ、長期的な症状改善を目指します。
睡眠薬
不眠症には、眠れない原因や不眠のタイプを確認したうえで睡眠薬を検討します。代表的な薬には、オレキシン受容体拮抗薬のレンボレキサント(デエビゴ)、スボレキサント(ベルソムラ)、ダリドレキサント(クービビック)、メラトニン受容体作動薬のラメルテオン(ロゼレム)、そのほかゾルピデム(マイスリー)、エスゾピクロン(ルネスタ)などがあります。
睡眠薬は種類によって作用時間や特徴が異なります。翌朝の眠気やふらつき、転倒リスク、ほかの薬やアルコールとの相互作用などにも注意が必要です。単に睡眠時間を長くすることだけを目標とせず、起床時刻、昼寝、カフェイン、飲酒、寝床で過ごす時間などの睡眠習慣も一緒に見直します。
気分安定薬・抗精神病薬
双極性障害では、炭酸リチウム(リーマス)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン/デパケンR)、ラモトリギン(ラミクタール)などの気分安定薬が使用されます。また、症状に応じてアリピプラゾール(エビリファイ)、オランザピン(ジプレキサ)、ルラシドン(ラツーダ)、クエチアピン徐放製剤(ビプレッソ)などの非定型抗精神病薬が選択されることがあります。
これらの薬は、躁状態やうつ状態の治療、再発予防など目的によって使い分けます。体重増加、眠気、代謝への影響、振戦など薬剤ごとに注意点が異なり、血液検査などによる確認が必要になることもあります。
ADHD治療薬
大人のADHDでは、生活上の工夫や環境調整とあわせて、メチルフェニデート徐放剤(コンサータ)、アトモキセチン(ストラテラ)、グアンファシン(インチュニブ)などを検討します。それぞれ作用の仕組みや効果の現れ方、副作用が異なるため、仕事や生活の状況、血圧・脈拍、睡眠、併存する疾患などを考慮して選択します。
コンサータは適正流通管理が必要な薬剤であり、処方には所定の条件があります。ADHDの薬物療法は「集中力を上げる薬を飲めば解決する」というものではなく、忘れ物や時間管理、仕事の進め方など具体的な困りごとに対する工夫と組み合わせることが重要です。
特定の症状に対して用いられることがある薬
会議、プレゼン、朝礼など特定の場面で動悸や手の震えが強く出る「あがり症」では、適応や禁忌を確認したうえで、プロプラノロール(インデラル)やメトプロロール(セロケン)などのβ遮断薬が用いられることがあります。これらは日本では社交不安障害そのものに対する承認薬ではなく、適応外で使用される薬です。喘息、徐脈、低血圧などの状態によっては使用できません。
こんな場合に薬物療法を検討します
- 抑うつ、不安、パニック、不眠などの症状が日常生活や仕事に影響している
- 休養や環境調整だけでは十分な改善が得られない
- ADHDや双極性障害など、薬物療法が重要な治療選択肢になる
- カウンセリングや環境調整と組み合わせて改善を目指す
カウンセリング
カウンセリングは、専門の心理職(公認心理師・臨床心理士)との対話を通じて、症状の背景にある考え方や行動のパターン、人間関係、ストレスへの対処などを整理し、日常生活で使える対処法を身につけていく治療・支援です。「話を聞いてもらうこと」だけを目的とするものではなく、症状や目標に応じて具体的な課題に取り組むこともあります。
薬物療法と組み合わせる場合もあれば、症状や本人の希望によって心理的支援を中心に進める場合もあります。薬で症状が軽くなっても、再び同じストレスに直面したときの対処法が身についていないと再発につながることがあります。そのため、回復期や再発予防の段階でカウンセリングが役立つこともあります。
認知行動療法(CBT)的なアプローチ
認知行動療法では、つらい気分や不安が強くなったときに、どのような考え方や行動が起きているかを整理し、より現実的で柔軟な考え方や行動を身につけることを目指します。うつ病、不安症、パニック障害、不眠症など、さまざまな状態で用いられる考え方です。
曝露反応妨害法(ERP)など
強迫性障害では、不安を避け続けるのではなく、段階的に不安を感じる状況に向き合いながら、確認や手洗いなどの強迫行為を減らしていく曝露反応妨害法(ERP)が重要な治療の一つです。症状の程度に応じて無理のない段階を設定し、継続して取り組みます。
ストレス対処・コミュニケーション・再発予防
職場や家庭のストレスを整理し、「どのような場面で負担が高まりやすいか」「どこまで引き受けると無理が出るか」を把握することも大切です。必要に応じて、ストレスマネジメント、アサーションなどのコミュニケーションの工夫、睡眠・生活習慣の見直し、再発のサインを早めに把握する方法などを一緒に考えます。
復職支援との組み合わせ
休職中の方では、症状が軽くなっただけで急いで復職すると、生活リズムや集中力、ストレス耐性が十分に戻っておらず再び体調を崩すことがあります。回復段階に応じて生活リズムを整え、通勤や作業を想定した負荷を段階的に増やし、再発予防を考えることが重要です。
こんな場合にカウンセリングを検討します
- 仕事・家庭・人間関係のストレスを整理したい
- 不安や考え方のパターンへの対処法を身につけたい
- 強迫症状や回避行動に取り組みたい
- 復職や再発予防について具体的な方法を考えたい
- 薬物療法だけでなく心理的な支援も受けたい
環境調整
精神的な不調では、症状を生じさせたり悪化させたりしている環境を調整すること自体が大切な治療になる場合があります。薬を増やす前に、長時間労働、過度な責任、人間関係、睡眠不足などの負担を見直すことで改善につながることもあります。
特に、適応障害やうつ病などで仕事に行くこと自体が大きな負担になっている場合には、「無理をしながら今まで通り働き続ける」ことが回復を遅らせることがあります。一方、休職すれば自動的に治るわけでもありません。休養中の生活リズムや治療、復職のタイミングまで含めて考えることが重要です。
仕事・職場の調整
- 仕事量や担当業務を一時的に減らす
- 残業や休日出勤を減らす・停止する
- 時短勤務や勤務時間の調整を検討する
- 配置や対人負担について職場と相談する
- 休職して治療と十分な休養を優先する
- 復職時に段階的に勤務負担を戻す
休職中の過ごし方
休職直後は、まず疲労を回復させることを優先します。少し回復してきたら、毎日の起床時刻を整える、日中に外出する、軽い運動を取り入れるなど、徐々に活動性を戻していきます。昼夜逆転や長時間の昼寝、過度の飲酒が続くと復職に向けた回復が遅れることがあるため、生活リズムを整えることも治療の一部です。
生活習慣の見直し
睡眠、食事、運動、飲酒、カフェインなどは、気分や不安、睡眠状態に影響します。完璧な生活を目指す必要はありませんが、起床時刻を一定にする、朝に光を浴びる、無理のない範囲で身体を動かす、夕方以降のカフェインや就寝前の飲酒を見直すなど、改善しやすいところから整えていきます。
家族・周囲との調整
症状によって家事や育児、対人交流が難しい時期には、家族に一時的な協力を求めることも必要です。また、職場や家族にどこまで病状を伝えるか、どのような配慮を依頼するかについても、本人の希望を確認しながら整理します。
診断書・傷病手当金など
休職や勤務調整が医学的に必要と判断される場合には、診断書の発行についてご相談いただけます。会社員など一定の条件を満たす方では、休職中の生活を支える制度として傷病手当金を利用できる場合があります。制度の利用条件や手続きは加入している健康保険や勤務先によって異なるため、勤務先・保険者の案内もあわせてご確認ください。
TMS治療(経頭蓋磁気刺激療法)
TMS(Transcranial Magnetic Stimulation:経頭蓋磁気刺激)は、頭部の外側から磁気刺激を行い、脳の表層にある神経活動に働きかける治療です。薬物療法とは異なる作用機序を持つ治療選択肢として、主にうつ病・うつ症状に対して検討されます。
たわらクリニック東京では、iTBS(intermittent Theta Burst Stimulation)を用いた自由診療のTMS治療をご案内しています。麻酔を必要とせず、意識のある状態で外来治療として受けられることが特徴です。現在の治療歴、症状の程度、服薬状況、身体疾患、安全性を確認し、精神科医がTMSを選択肢として検討できるか判断します。
どのような場合に検討するのか
抗うつ薬による治療を行っているものの改善が十分でない場合、薬の副作用が治療継続の負担になっている場合、薬物療法以外の治療選択肢も検討したい場合などに相談されることがあります。ただし、TMSがすべての方に適しているわけではなく、診察の結果、まず薬物療法、休養、環境調整、カウンセリングなどを優先することもあります。
当院のiTBSについて
iTBSは従来型のrTMSとは刺激パターンが異なり、1回の刺激時間を比較的短くできる方法です。当院では1回5分程度、週2〜5日、合計20〜40回程度を基本としていますが、実際の回数や頻度は症状や治療経過によって異なります。
主な副作用・安全性
治療中や治療後に、刺激部位の痛みや違和感、頭痛、顔面筋の収縮などが起こることがあります。まれですが、けいれん発作も報告されています。また、頭部周辺に磁気の影響を受ける金属や医療機器がある場合、人工内耳や深部脳刺激装置などを使用している場合、てんかん・けいれんの既往がある場合などは、治療を受けられない、あるいは慎重な判断が必要になることがあります。
TMS治療を開始する場合も、現在服用している薬を自己判断で中止しないでください。治療中も症状や副作用を定期的に確認し、薬物療法を継続するか、減量するかなどを医師と相談します。
TMS治療の特徴
- 薬物療法とは異なる作用機序の治療選択肢
- 麻酔を必要とせず、外来で実施できる
- 当院では東京院でiTBSを実施
- すべての方に有効とは限らず、適応と安全性の確認が必要
- 当院のTMS治療は自由診療

