パニック障害
パニック障害とはどんな病気?
パニック障害は、突然起こる激しい動悸や発汗、頻脈(ひんみゃく:脈拍が異常に多い状態)、ふるえ、息苦しさ、胸部の不快感、めまいといった体の異常と共に、このままでは死んでしまうのではないか、というような強い不安感に襲われる病気です。この発作は、「パニック発作」といわれ10分くらいから長くても1時間以内にはおさまります。100人に1人はパニック発作にかかったことがあるとも言われており、決して珍しい病気ではありません。
突然動悸や息切れや震えの症状が、どうして内科では何ともないと言われたのに出現するのでしょうか。パニック障害の原因は、今のところまだはっきりしていないところもあります。しかし、これまでの研究から、パニック障害は気持ちのもち方でなく、脳内の不安に関する神経系の機能異常に関連していることがわかっています。
これは、パニック障害の患者さんでは、脳の3つの部分に通常とは違った変化が起こっていることが指摘されているためです。まず大脳は、思考や意思などの高度な精神活動にかかわる場所です。パニック障害ではこの部位のセロトニンの分泌異常により、回避行動などが生じると考えられています。次に大脳辺緑系は、本能的な不安や興奮が生まれる場所で、ここで分泌されるセロトニンという物質がその調整を行っています。パニック障害ではこの部位のセロトニンの分泌異常により、漠然とした強い不安が続くのではないかと考えられています。最後に、青斑核は脳内で警報装置のような役割をしていて危険があるとシグナルを出し、このサインを視床下部がキャッチし血管や心臓、汗腺に反応を起こします。パニック障害ではこの部位の誤作動により、危険がないのにもかかわらず、パニック発作が起こってしまうのではないかと考えられています。このように、脳の各部位のそれぞれがもつ機能に応じて、パニック発作や予期不安、広場恐怖などの症状があらわれていると考えられています。これらの部位はお互いに関連しあってネットワークを作っています。
動悸や息切れしびれなど、どんな症状であれ、急にでてきては困ってしまうものです。症状が出るのが怖い。また出たらどうしよう。など、その不安がさらなる不安を呼び、さらに困った症状を誘発してしまうのです。
負のスパイラルの進行の為に、外出回数が減ったり、外出ができなくなって家に引きこもるようになってしまい、家庭や職場の理解が十分に得られずに、ゆううつな気持ちが強くなる「うつ病」の状態となりやすくなります。日常生活や社会生活が必要以上に制限されないように早期治療が肝要です。
パニック障害の症状
精神面の症状
- 自分が自分でない感じがする
- 意識を失うような恐怖
- このまま死んでしまうのではという恐怖
- また発作が起きるのではないかという強い不安(予期不安)
- (電車やバスなど)発作が起きた場所が怖い(広場恐怖)
身体面の症状
- 心臓がドキドキして動悸がする
- 息切れや息苦しさが突然出て苦しく感じる
- のどに何か詰まったような感じがあって、息が吸いづらい・吐きづらい感じがする
- 胸に痛みや不快感がある
- お腹の違和感が突然出てくる
- 吐き気が出てくる
- 体がしびれる感じがする
- 突然、汗が出てくる
- 体の震えがでる
- めまいやふらつき、気が遠くなる感じがする
- 肩や筋肉の凝りがある
- 頭痛がするときがある
パニック障害の具体的な症状例
では実際、上記のような症状はどのような場面で起こるのか、具体的な例を挙げます。
- 満員電車に乗っている時に突然、動悸や息苦しさが起こった。
- 夜、布団の中に入ると、不安感が襲い、眠れないことがある。
- 通勤のバスの中で突然、過呼吸の症状を感じ途中で降りてしまった。
- また過呼吸が起こるのではないかと不安で飛行機に乗れない。
- 動悸の不安のために首都高などの高速道路で車の運転が出来ない。
- デパートの混み合っている売り場で立ちくらみがして不安になった。
- レストランで食事をしてる時に吐き気を感じ食べられなくなった。
- 満員のライブ会場で過呼吸の症状が起きた。
- 病院で診察を待っている時に目眩や息苦しさを感じた。
- 歯医者さんで治療してもらっている時に息苦しさを感じた。
- 満員のエレベーターに乗っている時にドキドキし不安になった。
- 苦手な注射をする時にドキドキし、血の気が引く感じがする。
- 周りに誰もいない仕事場で急にドキドキし過呼吸の症状が起こった。
上に書かせて頂いたような症状を経験したことのある人は、パニック障害の可能性があります。
パニック障害が起こる原因
パニック障害は、直接的な原因はわかっていないのが現状です。ただ、いくつか仮説があり、脳にある「扁桃核」と言う部分が過敏になっているのではないかということがあります。
仮説ではあるが大脳辺縁系が関与
パニック障害が起こる原因を細かく説明しますと、延髄にある中枢化学受容器という二酸化炭素(CO2)を感知する働きが過敏になっている状態ではないかと推測されています。ここで過敏に感知された後、身体的な情報は大脳辺縁系の扁桃核という部分に情報が伝わります。扁桃核はストレスや危険を感知する場所でもあり、この部分が何らかの原因によりセロトニンを抑制します。セロトニンの働きが弱まり不安や恐怖に強く反応するため、それに対応するように自律神経系が活発(主に交感神経が優位)になりパニック発作を引き起こします。
どんな人がなりやすい?
パニック障害を持っている方の多くは、うつ病の症状もあります。うつ病はセロトニンのほかに、ノルアドレナリンなどの神経伝達物質の働きも抑制されることで引き起こします。セロトニンには、ノルアドレナリンの作用を調節する働きもあります。そのため、一部のSSRIでは脳内のセロトニン量が増えることで、うつ病以外にパニック障害も改善する効果が確認されています。
当院でのパニック障害の治療方法
薬による治療と認知行動療法という、考え方やものの見かた(認知のゆがみ)を変えるための方法を用いて治療を行っていきます。
1薬物療法
抗うつ薬(SSRI)という心のバランスを整える薬を中心にして治療をしていき、必要に応じて抗不安薬を使って症状を抑えます。SSRIはいくつか種類があり、その中でパニック障害に対して使用できる薬も分類されます。必要時に(頓服として)服用する抗不安薬は、主にベンゾジアゼピン系の抗不安薬を服用します。
①選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
SSRIの効能効果とその効き方
SSRIは、パニック障害による脳内セロトニンの減少を抑制する事で、症状を改善させる薬です。脳内のセロトニンは、量が少ない状態であると放出し、多くなると再取り込み(回収)を行ってバランスよく調節しています。パニック障害の場合、脳内セロトニン量の減少が原因とされています。
この薬の効き方は、脳内にあるセロトニンを再取り込みする部分を阻害します。つまり、セロトニンが減らないようにします。それにより、脳内のセロトニンの働きを強くしてパニック障害を改善します。
SSRIの種類
SSRIは4種類あり、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、フルボキサミンが日本で使用されています。このうち、パニック障害に対して適応があるのは、パロキセチンとセルトラリンになります(パロキセチンのCR錠の剤形には適応なし)。
副作用や飲み合わせの良くない薬
主な副作用は、①消化器症状、②精神神経系症状、③セロトニン症候群、④性機能障害があります。
①消化器症状
セロトニンは消化管にも存在します。そのため消化管にもセロトニンが作用して、吐き気・嘔吐、下痢、便秘、食欲がなくなる、口が渇くなどの症状が現れることがあります。服用中止後、2〜3週間前後で消化器症状は改善します。
②精神神経系症状
眠気の他に、めまい、ふらつき、頭痛、不随意運動(自分の意思では動かない運動)などの副作用が現れる可能性があります。そのため、自動車の運転や危険な機械作業など控えるようにしてください。
③セロトニン症候群
頻度は非常にまれです。セロトニン症候群は、不安やイライラ、混乱するなどの症状が現れる可能性があります。
④性機能障害
頻度はまれです。勃起しにくくなったり中折れしたりする勃起障害、うまく射精できない射精障害など現れることがあります。
飲み合わせの良くない薬があります。
セレギリン、ラサギリン、ピモジドの成分を含む薬(セレギリンとラサギリンは服用中止後2週間以内の場合も含む)は、一部飲み合わせの良くない薬があります。その他の薬も飲み合わせに注意しなければならないのもありますので、必ず、医療機関に服用している薬を伝えましょう。お薬手帳を持っている場合は、持参するようにしましょう。
その他注意すること
SSRIの服用は基本的に、症状に応じて少しずつ薬の量を増やしたり減らしたりして調節する薬です。症状が改善したと感じた時、「もう治った感じがするから飲まなくていいや」「薬に頼ってばっかりでは良くない」となることがあると思います。いきなり服用を中止すると、副作用症状が現れることがあるので、自己判断で急に中止することは絶対にしないでください。
②抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)
1.ベンゾジアゼピン系抗不安薬の効能効果とその効き方
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、脳の興奮などを抑えることで、不安や緊張、不眠などを緩和する薬です。
この薬の効き方は、大脳辺縁系、特に扁桃核のベンゾジアゼピン受容体に結合することで、脳内のGABAという神経伝達物質の働きを増強させます。これにより、パニック障害などの不安症状を改善します。
※GABAは抑制性の神経伝達物質であり、気分を落ち着かせる働きがあります。
ベンゾジアゼピン系の種類
一般的にベンゾジアゼピン系の抗不安薬は様々あります。代表的なのはジアゼパム、エチゾラム、クロチアゼパム、ロフラゼプ酸など使用します。
副作用や飲み合わせの良くない薬
主な副作用は、①精神神経系症状、②消化器症状、③依存症状があります。
①精神神経系症状
ベンゾジアゼピン系の薬は鎮静作用もあるため、眠気、ふらつき、頭痛など現れる可能性があります。
②消化器症状
吐き気、食欲がなくなる、口の渇き、便秘など(抗コリン作用)が現れることがあります。
③依存症状
頻度は非常にまれです。大量に服用したり長期で連用することで薬物依存になる可能性があります。そのため、医師の指示通りに服用するようにしてください。
その他注意すること
お子さんが服用する場合、ベンゾジアゼピンには、鎮静作用により勉強や記憶の妨げになるため、短期的な服用が望ましいです。ただ、SSRIを服用後、効果を得るまでに時間がかかるため、その間服用することがあります。
その他「薬物療法」もご覧ください。
2心理士によるカウンセリング
パニック障害は薬物療法という選択肢がありますが、それだけでは症状が改善しない場合もあります。そのため、薬だけに頼るのもあまりよくありません。ストレスを感じる状況から逃げ出さないことも治療では重要になります。
心理士によるカウンセリングは非薬物療法として効果があります。「認知行動療法」や「暴露療法」は代表的な非薬物療法になり、薬物療法と組み合わせて治療します。
認知行動療法
認知行動療法は、パニック障害の広場恐怖で行動に制限ができてしまっている際、特に有効だといいます。物事ができなくなっていることに対して、サポーターや家族・知人と一緒に行うことで、「できた!」という達成感や満足感を体験していきます。この体験を繰り返すことで、「不安はあるけどできた」「自分は大丈夫だ」と言うポジティブな思考を身につけていきます。そのようにして、パニック発作が起こるシチュエーションの克服、そして症状の改善に繋げていきます。
ただし、お子さんにおいて、薬でパニック発作をコントロールできるようになるまでは、認知行動療法を始めることは極めて難しいです。
詳細は「認知行動療法」をご覧ください。
暴露療法(エキスポーシャー)
暴露療法は、実際にパニック発作が起こった場所・状況にて、実際にもしくは本人が想像した中で繰り返し向き合わせます。それを何回も繰り返し、不安状態を経験、そして慣れさせていきます。本人が慣れてくると、パニック発作の重症度は次第と軽減されていき、最終的にはそのシチュエーションに遭遇しても問題なく対処することができるようになります。
これを「エキスポージャー」といい、避けている状況に少しずつ挑戦します。
ご来院いただいた後の注意点
パニック発作がまた起こってしまうのではないかという不安が無くなるまで薬を続ける事が大切です。パニック障害の症状は良くなったり悪くなったりを繰り返しながら快方に向かいますので、それに一喜一憂しないようにしてください。
薬をしっかりと飲んで症状を抑え、ストレスをしっかりと向き合うことが重要です。
パニック障害チェックリスト
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以下のように感じることがありますか?
- □ 胸がドキドキする
- □ 息切れ、息苦しさがある
- □ 汗をかく
- □ 震えることがある
- □ 窒息感がある
- □ 胸が痛くなる、胸部の不快感がある
- □ 吐き気がする
- □ 自分ではなくなるのではないかと感じる
- □ めまい、ふらつき、気が遠くなる感じがする
- □ 熱感や冷感がある
- □ 気が狂うのではないかと感じる
- □ 死んでしまうのではないかと感じる
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上記の項目の症状が、この1か月の間に起こりましたか?はい ・ いいえ
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上記の症状が起きたらどうしようと不安になりますか?はい ・ いいえ
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上記の症状が起きやすい状況を避けるように生活をしている、または日常生活に支障が出ていますか?はい ・ いいえ
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閉ざされた空間が苦手になりましたか?はい ・ いいえ
上記4つの項目に「はい」が2つ以上当てはまる場合、専門機関への受診をおすすめします。
パニック発作を引き起こしたときの家族やその周囲の対応
相手がパニック発作を引き起こしたとき、私たちはどのように対応すれば良いのでしょうか?
パニック発作を引き起こしたときは安心を与えてください
本人がパニック発作のとき、「このまま死ぬかもしれない!」という不安や恐怖でいっぱいな状態になっています。このような状態のときは、できるだけ寄り添って本人に安心を与えるようにしましょう。
広場恐怖の方は付き添って外出しましょう
広場恐怖の方の場合、悪化したりうつ病になると外出もできない状態になるおそれがあります。同伴して外出することが、本人の不安や恐怖を軽減することができます。ただし、無理やり外に連れ出すことはしないようにしましょう。本人に寄り添ってあげることが何よりも重要です。
パニック障害の対処方法
パニック発作はいきなりやってくる
先述にも紹介した通り、通常、症状は10分以内にピークに達しまます。その後、早ければ数分以内に症状は落ち着きを取り戻します。そのため、病院へ受診しても医師からは異常なしと診断されるケースは多くあります。ただし、同じ状況でパニック発作を引き起こしている場合、本人はその状況が原因と考え、その状況や場所(広場恐怖)を避ける「回避行動」へと進展するため、誤った認識を取り除く事が、非薬物療法における認知行動療法のカギとなります。
症状を放置したらどうなるの?
通常、パニック発作はその場で起こるため、病院で検査を受けても異常ないと言われることがしばしばあります。この状況が続くと、パニック発作は引き続き起こり、検査を受けても異常なしという状況を避けたくなります。
結果として、家に引きこもるようになり、日常生活に支障を来たす事があります。
パニック障害の経過について
早めに受診しましょう
治療を行うことで症状は改善します。逆に治療を行わないと、若年齢は学校を中退したり、社会人は会社へ行かなくなります。その後、引きこもるようになり、孤立する傾向や最悪の場合自殺することもあります。
また、気づかない間に良くなったり悪化したりを繰り返す事があります。一部の方では、長期間に渡って、症状が寛解状態(完治までは行かないが、コントロールできている状態)になります。しかし、パニック障害は数年後に再発することもあるので、しっかり治療しましょう。
焦らず治療することが大事
パニック障害は、すぐ改善したり、徐々に改善するのではない病気です。症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら改善していきます。早く治そうと焦らず、ゆっくり治療することが重要です。
どうしても辛いときに薬を使用して、ストレスを軽減しましょう。ストレスと向き合い、慣れていくようにしましょう。
パニック障害と自律神経失調症は違うの?
パニック障害と自律神経失調症の違いが分からず疑問に思っている方もおられると思います。この2つの病気はどう違うのでしょうか?
自律神経失調症
自律神経失調症は、自律神経のバランスが乱れることで様々な症状を引き起こします。多くの自律神経失調症になる方は、交感神経が優位な状態が多い特徴があります。
症状として、疲れやすさ・だるさ、便秘や下痢、頭痛やほてり、喉の違和感や動悸、しびれや手の汗、頻尿や残尿感など、ほかにも多くの症状があります。
詳細は「自立神経失調症」をご覧ください。
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